本事業の背景・目的
- JSAでは、主にスポーツ指導者を対象としたスポーツマンシップ教育の取り組みにより、競技を原点とするスポーツが有する活動の形・場面・状況を生かしながら、スポーツマンシップという概念に包含される尊重、勇気、覚悟など、スポーツを愉しむこととスポーツを通じて人格を育むことを両立させるスポーツ指導の普及を図ってきました。
- 一方で、スポーツマンシップを学んだ指導者からは、子供のスポーツを通じた気づきや学びが生活での実践に引き継がれないことを苦慮する声が聞かれる。その背景の一つには、スポーツ指導者と保護者との間に、スポーツマンシップに対する認識や理解のギャップがあると考えています。
- スポーツ環境の中で体現され始める子供自身のスポーツマンシップが、生活環境の中で保護者によって効果的に促されないジレンマがある(例えば、スポーツ指導者が子供に主体的な思考・判断や実践を促した後、家に帰ると保護者は子供に対して指示的であり、主体性を発揮する機会を逸するなど)。このジレンマは行動変容ステージモデルにおける「逆戻り」を生むことから、スポーツ指導におけるスポーツマンシップ教育を通じた子供の人格形成の制約要因となっていると考えられます。
- そこで、本事業では、新たに保護者を対象としたスポーツマンシップ教育プログラムを開発し、実証的にその効果や課題の検証を行いました。
- 具体的には、保護者自身がスポーツマンシップの概念を分かりやすく学び、その認識や理解を促し、それを前提とした子供への声がけや働きかけ、傾聴などの行動の量や場面を増やすことを通して、子供がスポーツ活動の中で学んだスポーツマンシップを日常生活の中でも体現しやすいような環境をつくることを目指しました。
- また、一度きりの知識提供型の介入効果は限界があると考えらえるため、保護者の継続的な行動変容を支援するための情報提供の効果についても検証することとしました。
詳細な内容はこちらからご確認ください。
取り組み内容
1. 人型ロボットPepperによるオンライン親子教室の実施
1)概要
- 時期:2021 年 8 月〜2021 年 11 月(計 4 回・毎月開催)
- 場所:オンライン(Zoom)
- 対象:82人の親子(連携スポーツクラブ小学生会員とその保護者37組82人(保護者35人子ども47人)
- 内容:テキスト「スポーツマンシップ・バイブル」を用いながら、クイズ形式で分かりやすくスポーツマンシップを考える・学ぶ
2)プログラム
- 日本スポーツマンシップ協会(JSA)は千葉商科大学(CUC)及びソフトバンク社と共同で親子向けスポーツマンシップ教育プログラム「Pepperの特別オンライン授業『スポーツマンになろう!―クイズで学ぶ「スポーツマンシップ」―』」を開発しました。
- 本プログラムは、クイズ番組のようなしつらえで出題し、テレビの前でクイズ番組を観ている親子のような関係で一緒に考えながらクイズに答えていくことで、スポーツやスポーツマンシップに関する理解を深めていく形式で作られています。
- 本プログラム自体が、スポーツを縮図化した構造となっており、親子で参加していながらも、最後は子ども自身が自分の考えを仲間に伝える行動を取ること、その行動に保護者が寄り添う形で本プログラムに参加をしてもらうため、クイズを始める前には、以下のルールの説明を行いました。
友達(ともだち)を大切(たいせつ)に思(おも)いやり、意見(いけん)をよく聞(き)きましょう。勇気(ゆうき)を出(だ)して、自分(じぶん)の考(かんが)えを仲間(なかま)に伝(つた)えましょう。難(むず)しくてもあきらめずに、全力(ぜんりょく)を尽(つ)くしましょう。 |
- 本プログラム自体がスポーツに見立てられており、以下のゲームで構成されています。
Game 1 スポーツってなに?
Game 2 ゲームってなに? Game 3 最高にうれしいのはどんな時? Game 4 スポーツをするために必要なものとは? <スポーツマンに大事な3つのポイント> Game 5 スポーツマンかわかるときはどんなとき? The Last Game スポーツマンになりたいですか? |
- 各ゲームのクイズは、ソフトバンク社の人型ロボットPepperが出題しました。
- ファシリテーターは、本プログラムの開発にたずさわっている、千葉商科大学サービス創造学部の学生が担当した 。親子が親しみを感じやすい雰囲気の中でプログラムを進行しました。
- 参加者(親子)は、あらかじめ配布した「ワークシート」(解答を書き込む用紙)に回答を書き込み、ファシリテーターの呼びかけで、Zoomのカメラで解答がお互いに見えるように表示しました。
- ファシリテーターはそれを見ながら、設問ごとに何人かの参加者を指名し、解答の内容やそのように考えた理由をたずね、参加者(子ども)はその質問に答えました。
- ファシリテーターは、勇気を出して自分の考えを仲間に伝えたことに対して、それを賞賛するコメントを都度発することで、子ども自身の自己肯定感を高め、子どもの主体性に対する保護者の認識に働きかけました。
3)参加した保護者の感想
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詳細な内容はこちらからご確認ください。
2. メールマガジンの定期発行
1)概要
- 内容:日常生活の場面や状況に応じてスポーツマンシップを促す子どもへの声がけや働きかけ、傾聴など、すぐに実践できる具体的な方法(ティップス)やアイデア
- 方法:メールでの送信
- 対象:Pepper親子教室に参加した保護者、事前アンケートで配信を希望した保護者86人
- 時期:2021年11月〜2022年2月(4ヶ月間)
- 頻度:週1本(毎週配信)
- 備考:親子教室受講後3ヶ月間の行動変容支援、希望者への情報提供
2)プログラム
<配信内容>
- 2021年11月23日から2022年2月13日にかけて、全10回にわたり、本事業対象者における希望者を対象に定期発行しました。
- 各回の配信内容はこちらから閲覧できます。
3)購読した保護者の感想
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詳細な内容はこちらからご確認ください。
3. 保護者向けオンラインセミナーの実施
1)概要
- 日時:2022年3月17日(木)19:30-21:00
- 場所:オンライン(Zoom)
- 対象:連携スポーツクラブ小学生会員の保護者、一般
- 内容:スポーツ指導、児童教育の専門家とともに「子育てとスポーツマンシップ」を考える
- 登壇者
(ゲスト)
神武直彦氏(慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科教授、慶應義塾横浜初等部部長)
森林貴彦 氏(慶應義塾幼稚舎教諭)
(主催者)
宮下裕至 (株式会社フジスポーツクラブ代表取締役社長)
中村聡宏 (一般社団法人日本スポーツマンシップ協会代表理事/会長)
江口桃子 (一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事、フリーアナウンサー)
2)内容
- 論点1:子育てにどう向き合うか?
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- 論点2:スポーツの教育的価値
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- 総括
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3)参加者の感想
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詳細な内容はこちらからご確認ください。
4. 保護者向け情報媒体(小冊子、動画)の作成・提供
1)概要
- 内容:スポーツの価値やスポーツマンシップに対する関心を喚起するメッセージ、保護者の役割や関わり方に関するヒントやエピソードなど
- 配布先:連携スポーツクラブ会員(小冊子、ウェブサイト)
- 部数:2,000部(小冊子)
2)内容
<小冊子>
- 以下の内容で構成される、合計20ページの小冊子(コンセプトブック)を制作しました。
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(ビジュアルイメージ)
<動画>
- 合計2分間の動画(プロモーションビデオ)を制作しました(構成内容はコンセプトブックと同じ)。
(ビジュアルイメージ)
詳細な内容はこちらからご確認ください。
本事業の成果と課題
成果
- 本事業では、スポーツ環境の中で獲得した子供自身のスポーツマンシップが、生活環境の中でも発揮されるような保護者の関わり方を目指して、新たに保護者を対象としたスポーツマンシップ教育プログラムを開発し、実証的にその効果や課題の検証を行ないました。
- 本事業での取組を通じて、今回対象とした保護者には、①スポーツを通じて子育てを充実させたいという意欲やそのための知識の吸収に関心がある群(タイプ1:関心層)と、②漠然とスポーツは良いものだと考えてスポーツクラブに子供を通わせているが、それを子育てに積極的に結びつけたり、そのために自分自身が学ぶ意向はない群(タイプ2:無関心層)、があることが分かりました。
- タイプ1の保護者には、その意欲や関心に応える適切な情報や機会を適時に提供することによって、保護者の認識・知識が変化し、それに伴う行動(子供への向き合い方、関わり方)も変化することが実証的に確認できました。
- 特に、プログラムに参加した保護者(介入群)は参加しなかった保護者(対照群)に比べて、(a)スポーツに対する価値観の観点からは、「スポーツを愉しむこと」や「スポーツが子供の発育に良いものであること」に対する認識が大きく増加し、「レギュラーになりたかったら嫌なことがあっても我慢する」という認識が大きく減少しました。また(b)スポーツや子育てにおける子どもへの関わり方の観点からは、子どもが失敗したりうまくいかない時、「あえてそのことに触れない」という行動が減少し、「子供をなぐさめる」という行動が大きく増加しました。加えて、「子供自身のことは子供が自分で決めるように励ます」という行動も増加の傾向が見られました。
- これらのことから、保護者を対象としたスポーツマンシップ教育プログラムは、保護者のスポーツに対する価値観の変化や子供への関わり方の行動の変化に対して一定の効果があると考えられます。
活動を通じて明らかになった新たな課題と対応策
- 本事業で対象としたスポーツクラブ会員約1,900世帯の中で、本事業の取組に関心を示した保護者は限定的でした(初期調査(任意)への回答率約9%)。また、本事業の各プログラムに参加した保護者はさらに限られていました。このことから、本事業をさらに広く普及・発展していくためには、以下の課題に対応していく必要があると考えられます。
- 一点目に、タイプ1(関心層)の保護者の参加を増やすための方策の検討が必要であると考えます。今回の取組の主たる対象は小学生の子供を持つ保護者であり、仕事や子育てなどで忙しい日常生活において、本プログラムに充当する時間を新たに確保すること自体が保護者にとっては容易ではないことが分かりました。保護者へのヒアリングを通じて、保護者によって確保可能な時間帯が異なることも明らかになりました。親子一緒に参加するプログラムか、保護者だけが参加するセミナーかによって異なりますが、対応案としては、参加可能な曜日や時間帯に複数の選択肢を設けることや、セミナー系のプログラムはライブでの開催後、オンデマンドで視聴可能なコンテンツとして提供するといったことが考えられます。
- 二点目に、タイプ1(関心層)の保護者が時間を割いてでも参加してみようと思えるプログラム内容や訴求方法への工夫にも改善の余地があると考えられます。今回は当該スポーツクラブの協力も得ながら、保護者にお便りを直接手渡ししていただいたり、各教室の受付付近や子供の教室を参観するエリア付近などにポスターを掲示するなど、情報としては一定の数のタイプ1の保護者に認知されていたと考えられますが、最終的に参加に至らなかったケースも少なくなかったと考えられます。保護者セミナー企画時における保護者への事前ヒアリングを通じて、例えば、スポーツを通じた子育てに積極的に取り組んできた先輩保護者の話や、子育ての専門家の視点から見たスポーツの良さの話など、具体的な内容へのニーズもあることが分かっていましたが、本事業では実現できなかった反省もあることから、今後はそのような関心の高いコンテンツを提供していくことで、より多くの参加につなげていくことが考えられます。一方で、ニーズとして顕在化しづらい未知の知識については、そのような関心のあるコンテンツを参加の入り口(ゲートウェイ)として、それに組み合わせる形で未知の知識を提供することで、直接的には関心の得づらいコンテンツの提供も促進できると良いと考えられます。
- 三点目に、タイプ2(無関心層)の保護者に対する関心の喚起の課題が残されていると考えられます。この点については、本事業で得られた知見は少ない一方で、本事業で対象としたスポーツクラブ会員の場合、子供の送迎のためにほぼすべての保護者が教室に足を運んだり、クラブからのお便りを受け取るなど、スポーツクラブに子供を通わせていない保護者に比べると、保護者当事者に対する情報伝達や機会提供のルートが確立されている利点があります。今後は、このような利点をどのように活用することが、タイプ2の保護者の行動変容ステージをタイプ1(関心層)に移行することができるか、引き続き検討を行いたいと考えます。
本事業の取組に関する詳細な内容や調査結果等は、「2021年度『スポーツからの学びを日常生活につなげる、保護者向けスポーツマンシップ教育プログラム』事業成果報告書」をご覧ください。